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【明治の50冊】(22)樋口一葉「たけくらべ」 雅俗折衷体で思春期の葛藤

台東区立一葉記念館所蔵の「たけくらべ」未定稿。一葉は数千枚ともいわれる草稿を残しており、書くことへの並外れた情熱がうかがえる
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 《廻(まわ)れば大門(おおもん)の見返り柳(やなぎ)いと長けれど、お歯ぐろ溝(どぶ)に燈火(ともしび)うつる三階の騒ぎも手に取る如く》

 吉原遊廓正門の外にある見返り柳までは、ぐるっと回って距離があるけれども、遊郭を囲むお歯ぐろ溝を照らす妓楼の騒ぎは、手に取るように分かる-。吉原に隣接する通称「大音寺前」(下谷龍泉寺町、現在の東京都台東区竜泉)の描写から、「たけくらべ」は書き起こされる。

 千束稲荷(せんぞくいなり)神社の夏祭りから、冬の鷲(おおとり)神社の酉(とり)の市までの3カ月あまり。吉原の年中行事や季節の移ろいにそって、少年少女が大人の社会へ踏み出していく直前の時間をとらえた不朽の名作だ。

 全盛の花魁(おいらん)である姉の威光を背景に、仲間内で女王のように振る舞う美登利(14歳)は、対立するグループに属する、寺の跡取りの信如(15歳)にほのかな思いを寄せる。

 雅俗折衷の擬古文(ぎこぶん)は、掛詞や引用、それとなく差し挟まれた俗謡、廓(くるわ)帰りの若者の評言などから、吉原という特殊な町の価値観、風俗を重層的に描き出す。一葉は日本文学史上、最後の擬古文による作家といわれている。言文一致体へ移行していく時代にあって、伝統的な古典の素養をもとに、江戸時代の西鶴の俗文や明治の話し言葉、女性的な感覚を取り入れて、雅文、俗文を織り交ぜた雅俗折衷体を編み出した。

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