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【明治の50冊】(18)志賀重昂「日本風景論」風土によるナショナリズム喚起

岩波文庫版『日本風景論』
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 日本の風景は世界でも群を抜いて美しい、それはなぜか-。地理学者の志賀重昂(しげたか)が明治27(1894)年に刊行した『日本風景論』は、外国と比較した日本の景観の特徴やその美を科学的視点を取り入れて称揚し、日本のナショナリズム論に「風景」を導入した記念碑的著作だ。

 志賀はまず、日本の風景が持つ美しさを「瀟洒(しょうしゃ)」「美」「跌宕(てっとう)(のびのびとおおらかなこと)」の3つに分類。詩情あふれる瀟洒の粋として秋を、花や草木の色鮮やかな美の精髄としては春を置く。跌宕は説明がなく分かりづらいが、例として北海道沿岸の断崖に砕ける波濤(はとう)や阿蘇のカルデラ、太平洋上に屹立(きつりつ)する筍(たけのこ)岩などを挙げているところからすると、雄大、荘厳といった概念だろう。

 そして、この美しい日本の景観がなぜ生まれたのかについて、「気候、海流の多変多様なる事」「水蒸気の多量なる事」「火山岩の多々なる事」「流水の浸蝕(しんしょく)激烈なる事」の4要因を挙げて説明を行う。特に火山岩の項目には熱が入っており、「日本国や、実に北来南来二大火山力の衝突点に当り、火山の存在するもの無慮百七十個、而して全国表土の五分の一は火山岩より成る、これ日本の景物をして洵美(じゅんび)ならしめたる主源因」として各地の火山を列挙。「けだし日本風景の粋は火山及び火山岩にあり」と激賞している。

 こうした近代自然科学の知識を随所にちりばめつつ、漢文脈の美文で日本風景の美を朗々とうたいあげ、登山を奨励した同書は大きな反響を呼んだ。初版刊行後9年で15版を重ねる大ベストセラーに。昭和12年刊の岩波文庫版に解説を寄せた日本山岳会創設者で紀行作家の小島烏水(うすい)は、この本が当時与えた影響について「『風景論』が出てから、従来の近江八景式や、日本三景式の如(ごと)き、古典的風景美は、殆(ほとん)ど一蹴された感がある」と述懐する。平成26年には講談社学術文庫で新装版が出るなど、今も読み継がれている。

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