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川上未映子さん短編集「ウィステリアと三人の女たち」性差超えた「人間らしさ」

執筆と長男の子育てでフル回転。「1日書けても3時間半。くたくたになります」と話す川上未映子さん(佐藤徳昭撮影)
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 「一つのイメージを手がかりに、形にできるのが短編の良さ。いろんな挑戦ができますよね」。川上未映子さん(41)の短編集『ウィステリアと三人の女たち』(新潮社)は深い孤独を抱えた女性たちの交流を描く4編からなる。なだらかな文章に運ばれて、どこか危うくも、確かな光に彩られた不思議な瞬間に立ち会える。(海老沢類)

 表題作の語り手は、年上の夫との関係が冷え切った38歳の主婦「わたし」。3月のある真夜中に、「わたし」は自宅のはす向かいにある、かつて老女が暮らしていた解体作業中の空き家に踏み入る。白と薄紫の美しい花を散らした庭の藤の木は切り倒され、瓦礫(がれき)も積み上がる。濃い闇に包まれた廃屋で、「わたし」はふいに知るはずのない家主の老女の人生に思いをはせる。

 「本当の名前」

 「瓦礫を描きたいというのが始まりだったんです」と川上さん。「住宅街の中で、生活があった家が突然つぶれ、更地になる。あったものがなくなる…。子供の頃から日常的に見てきたそんな風景がなぜか気になるんですよね」

 「わたし」の想像の中で、若き日の老女は英国人の女性教師と英語塾を開いている。ある日、女性教師は老女に〈ウィステリアと呼んでもいいか〉と聞く。見かけは関係ない、それが君の〈本当の名前〉なのだから-と。愛を知った老女の胸は高鳴り、濃密な時間が流れ始める。「名付け」で新たな色彩を帯びる老女の生に触れた「わたし」もまた、日常へ戻ったときに自らの内面が決定的に変わったことを実感する。

 「自分を名付け直す-って、初期設定への異議申し立てですよね。『なぜ、こうあらねばならなかったのか?』という疑いの象徴的な行為。不思議じゃないですか? 自分が女性であることや男性であることも、知らないうちに生まれ、いつか強制退場させられる、この一回きりの『生』のあり方も…」

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