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【話の肖像画】作家・古井由吉(5)文学が栄えなかった時代ない

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 〈23年の東日本大震災は、幼少の頃の空襲の記憶を呼び起こした。同年刊の連作短編集「蜩(ひぐらし)の声」にも震災時の心象風景は投影されている〉

 空から来るか、下から突き上げてくるか。その違いはあるけれど、全面的にやられてしまう点では、幼少のころに体験した空襲も、あの大震災も同じですよね。結局、戦後の長い平穏によって、人の心の中で何か緩むものがあった。つまり人間は危機のなかで生きるほかない、ということを忘れてしまったんですね。人は自分の自由にならない圧倒的な力に囲まれていて、今安心して過ごしているこの日常もそれほど確かなものではない-。そういうことを僕は小説で書いてきたところがある。

 〈出版不況下で文芸書の販売は振るわないが、文学の力を悲観はしていない〉

 まず街の本屋がなくなってきているし残った大書店でも、実用書の棚が増えている。硬い専門書や文芸書は苦しい。でも実用書っていうのは一面的で、意外に役に立たないんじゃないかな。世界には、政治や経済だけでなく、やっぱり文学が必要なんですよ。「どうやって生きるか」とか「どんな生き心地を求めるのか」とか、人にはそういう心の問題があるんでね。ヨーロッパや中国の長い歴史を見ても、文学が栄えなかった時代はない。むしろ世の中が悪いときに栄えるようなところがある。

 5年先か、10年先か、それとも20年先になるかは分からないけれど、そういう文学の復活はあると、僕はにらんでいます。(聞き手 海老沢類)

 =次回はスポーツキャスター・女優の大林素子さん

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