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【話の肖像画】作家・古井由吉(2)戦争に負けた国の文学をやろう

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 〈終戦後、東京へ戻り、高校受験期には腹膜炎で約40日間の入院生活を強いられた。日比谷高校に進むと、内外の小説を乱読するようになった〉

 盲腸をこじらせて命も危うかったんですね。長い入院生活をきっかけに、小説を読むようになりました。日比谷高校に通っていた当時は出版ブームがあってね。東京・京橋の丸善でも1フロアを使ってゾッキ本(極めて安い価格で売られる新品本)を売っていた。地下鉄の定期が使えたから、学校帰りに丸善に行く。嘉村礒多(かむら・いそた)とか徳田秋声とか、高校生に分かるわけないんだけど懸命に読んでいましたね。自分を超えるものに食らいつきたかったんでしょう。

 本は少ないお金で広い世界へと連れ出してくれた。そのころには「驚起(きょうき)」という日比谷高校の文学同人誌に加わっていて、小説ともつかぬものを書いてみた。ただ、腰を据えて小説を書き出すのは、ずいぶん先になります。

 〈31年に東京大学へ進学。ドイツ文学を専攻した〉

 独協高校に一時期通っていて、ドイツ語になじみがあったのもあるけれど、「日本と同じように戦争で負けた国の文学をやろう」って気持ちがあったんです。英米文学や仏文学をやる人たちは、戦勝国と自己を同一化しているところがあった。それが嫌でね。卒論に選んだのはカフカ。原文を読むと、非常に透明な文章で不可思議なことが書かれている。「これはとてもマネできるものじゃないな」と思った。一方で、自分が組織で働く姿も想像できない。うかうかと就職の時期を過ごすうちに研究者の道を進むことになったんです。(聞き手 海老沢類)

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