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【書評】『アイリーンはもういない』オテッサ・モシュフェグ著、岩瀬徳子訳 醜悪な心を書き尽くす

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 いうなれば彼女は、著しく未成熟なのだ。大方の人間が社会に出る前に折り合いをつけてしまう過剰な自意識を、制御に苦しむくらい肥えさせてしまい、持て余して暴走しているのである。老境に入ったアイリーンの語りは、冷淡なようでいて、醜悪だった自分を書き尽くさんとする執念に満ちており、そこに記憶違いや行動の矛盾も入り交じって、鬼気迫るサスペンスとなっている。

 アイリーンの転機は思いもかけず訪れる。彼女はいったい何を見、何を経験したのか。このミステリー的な趣向が、読む者を惹(ひ)きつけて離さない。暗い情念が横溢(おういつ)しているのに、青春小説のような一抹の清々(すがすが)しさも備えた、比類なく鮮烈な作品だ。

 著者は1981年ボストン生まれの作家で、2015年に発表した本作は、PEN/ヘミングウェイ賞を受賞したほか、数々の文学賞にノミネートされた。(早川書房・2100円+税)

 評・西野智紀(書評家)

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