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【話の肖像画】漫画家・矢口高雄(3)ツチノコと「釣りキチ三平」

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【話の肖像画】
漫画家・矢口高雄(3)ツチノコと「釣りキチ三平」

 〈昭和39年に「月刊漫画ガロ」で「カムイ伝」の連載が始まった。江戸時代以降、農民や武士などさまざまな階級の人間の視点から複合的に紡がれた長編で、続編の「カムイ外伝」とともに、掲載誌を替えて平成初頭まで断続的に連載された〉

 村で初めての銀行員でエリートだったので、「漫画家になりたい」などといえる雰囲気はありませんでした。仕事を覚えるため、漫画を描くことからは遠ざかっていましたが、読んではいました。今のJR十文字駅(秋田県横手市)近くの支店に勤務していたとき、同僚の女性が近所の本屋の娘で、職場によく漫画誌を持ってきてくれた。その中にあった白土三平氏の「カムイ伝」にしびれてしまいました。農民一揆を主導するキャラクターにひかれたんです。僕は生粋の農民の息子で、1960~70年代、日米安保条約に反対する闘争や賃上げ問題など、社会主義的な思想に影響されたんです。

 既に妻子もいました。でも漫画家への夢が再燃し、睡眠を削って「長持唄考」という作品を描いた。戦後の秋田の農村で、いろりばたの事故で顔を大やけどした幼い娘を、母親がふびんに思い絞め殺した事件がテーマです。これが昭和44年「ガロ」に掲載され、デビューのきっかけになった。

 45年に30歳で銀行を退職して上京。梶原一騎さんの原作の作画でデビューが決まりました。ペンネームの「矢口」は梶原さんの発案。自作「あしたのジョー」の主人公「矢吹丈」がヒントになったのでしょう。僕が当時、東京都大田区矢口に住んでいたことを担当編集者が梶原さんに話したのもあります。

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