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【書評】寛容さ喪う私たちの世界への警鐘 『守教(上・下)』帚木蓬生著

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【書評】
寛容さ喪う私たちの世界への警鐘 『守教(上・下)』帚木蓬生著

『守教(上)』帚木蓬生著 『守教(上)』帚木蓬生著

 本書を読みながら改めて思い知らされたことは、作品にはそれにふさわしい文体がいるということであった。本書の場合、それは静謐(せいひつ)極まりない筆致である。

 物語は戦国期、大友宗麟(そうりん)麾下(きか)の一万田右馬助(いちまだうまのすけ)が、宗麟から、二つのこと--領内の高橋村の大庄屋になることと、小さくともよいから、イエズス教の国をつくること、を頼まれ、これを実行しようとするところから幕があく。

 上巻では、存在すら知らなかった神の教えを聞いた人々--武士から農民まで--の歓喜とおののき、そして秀吉の禁教令によって、宗徒の間に広がる不安と動揺が活写されている。

 さらに下巻では、苛烈を極めるキリシタン弾圧の中で行われる、殉教、追放、密告などから、幾星霜を経て、明治6(1873)年、外圧によって、開教が成されるまでが描かれていく。

 本書は、一貫して、右馬助とその子孫たちの視点で物語が進行し、詳述はしないが、特に、下巻で描かれる、信徒を守るための最大の殉教の場面では、読者は落涙を禁じ得ないであろう。

 それを可能たらしめたのは、前述の静謐な筆致によるものであり、映画でいえば、本書はドキュメンタリーに近く、私たちは、この凄惨(せいさん)な事実(もはやそうとしか思えない)から目を離すことはできなくなる。

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