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宮城谷昌光さん長編「呉漢」 小石を黄金に変えた大志

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宮城谷昌光さん長編「呉漢」 小石を黄金に変えた大志

 暗さはあるけれど厄介な自意識とは無縁。目先の計算や利害に目が曇ることはなく、鋭敏なのに鈍重なところもある。呉漢の不思議な魅力にひき寄せられ、年長の知恵袋や優秀な武人が集う。その進軍は電光石火の速さで、負け知らず。次第に乱世を鎮めるために不可欠な存在となっていく。

 希代の武将を形づくるのが、農地を見つめながら学んだ〈人の力ではどうしようもないものがある〉という感覚だ。天候ひとつで何もかもが大きく変わってしまう自然の理を知る呉漢の美質が、絶大な寛容さを備えた名君・劉秀との共通点として印象的に描かれる。「『地』ばかり見ている人間は、相当したたか。『天』や『人』ばかり見ている人とは違う合理性を学ぶ。『地』から教えられるものは大きい」

 そんな才気に大きな志が加わり、一本の太い人生が織りあがる。〈人が念(おも)う力とは、小石を黄金に変える〉-。呉漢は若き日に聞かされた言葉を折に触れて反芻(はんすう)する。宮城谷さん自身、作家になるために20代で会社を辞めたものの、直木賞を受けたのは40代半ばになってから。文学的自立を志し、先の見えない闇の中をはい上がってきた。

 「そのときに、何かを一心に見つめると、石も黄金に変わる、と教えられた気がしたんです。暗闇の中で『灯(あかり)が欲しいな』と思っても、本当の灯というのは外から人が差し出してくれるものじゃない。真っ暗な中に置かれた人間は自分で光らない限り足元は見えない…そう気づくまで時間がかかりました。小説家のずるいところだけど(笑)、自分の何かを移植しないと登場人物は強くならない」

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