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【書評】胸に迫る数々の小さな物語 『NYの「食べる」を支える人々』アイナ・イエロフ著、石原薫訳

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【書評】
胸に迫る数々の小さな物語 『NYの「食べる」を支える人々』アイナ・イエロフ著、石原薫訳

 この本を読むのは、至福の時間だった。「食べる」が人間の幸福の大きな部分を占めていることを思えば当然なのかもしれない。この分厚い本を手にしている間、その幸せ感をずっと味わえる。

 ニューヨーク在住の著者は30年以上のキャリアを持つ調査報道ジャーナリストで、とくにオーラル・ヒストリー(証言の記録)を書くことが得意のようだ。この本も、ニューヨークで食に関わる仕事をする53人が「自分史」を語るという形式でまとめられている。共通するテーマは「食」であっても、描かれているのは「人」そのものであり、それぞれの物語。

 彼らが生活する街と同じく、その人選も多種多様だ。高級レストランのシェフ、行列のできる屋台オーナー、刑務所の給食業務担当者…。アメリカ人もいるが、ポーランド、ギリシャ、エジプトなどからの移民も多い。ほとんどの人が家庭生活を犠牲にしているといいながら一日に十数時間働く。それは苦役ではなく、情熱の対象なのだ。

 〈一流の人々が一流と呼ばれる理由は、食に関して、どんな些細(ささい)なことも疎(おろそ)かにできない、それが結果的に大きな違いを生むことを、彼らは肝に銘じているから〉と著者は書く。そして、すべての登場人物から、それぞれハッとするほど印象的な言葉を引き出している。

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