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【書評】作家、翻訳家・青木奈緒が読む『さよなら、スパイダーマン』アナベル・ピッチャー著、中野怜奈訳 テロ被害から再生する家族

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【書評】
作家、翻訳家・青木奈緒が読む『さよなら、スパイダーマン』アナベル・ピッチャー著、中野怜奈訳 テロ被害から再生する家族

『さよなら、スパイダーマン』アナベル・ピッチャー著、中野怜奈訳 『さよなら、スパイダーマン』アナベル・ピッチャー著、中野怜奈訳

 ジェイミーは隣の席に座るイスラム教徒の少女スーニャに戸惑いつつも心を許し、淡い恋心を抱くのだが、それも父親に見つかったらおしまいとわかっている。ローズを失ってから、父は誰彼構わずイスラム教徒をテロリストと決めつけているからだ。10歳の少年にだって、そんなことおかしいとわかるのに。

 「ヘタレ(情けない)」などとばかにされながらスパイダーマンに憧れるジェイミーの視点で読み進むうち、自分も子供のころはこんな風に感じていたことを思い出す。学校に通うのが憂鬱な日もあれば、一転、痛快なできごとに心躍らせることもある。

 やがてジェイミーは「父さんは変わろうとしているし、かんぺきな人間なんていないもんね」と思い至るようになる。世の中の人が一緒に生きている限り、加害者としてのみ生きる人もいなければ、一生被害者だけの人もいない。現実的な家族の再生と、子供から大人への成長過程をいきいきと描いて印象深い。(偕成社・1700円+税)

 

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