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【書評】作家、翻訳家・青木奈緒が読む『さよなら、スパイダーマン』アナベル・ピッチャー著、中野怜奈訳 テロ被害から再生する家族

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【書評】
作家、翻訳家・青木奈緒が読む『さよなら、スパイダーマン』アナベル・ピッチャー著、中野怜奈訳 テロ被害から再生する家族

『さよなら、スパイダーマン』アナベル・ピッチャー著、中野怜奈訳 『さよなら、スパイダーマン』アナベル・ピッチャー著、中野怜奈訳

 この本は分類上、児童書の扱いとなっている。漢字には丁寧にルビがふられており、小学校高学年から十分に読めるだろう。主人公は10歳の少年ジェイミー。物語は彼の視点から描かれている。

 邦題からは子供向けファンタジーを想像しがちだが、冒頭からいきなりはっとさせられる。ジェイミーの姉ローズはロンドンで起きたイスラム過激派の同時多発テロに巻き込まれ、バラバラの体で発見される。それ以来5年の月日がたっても、家族は事件を乗り越えることができず、ジェイミーの父親は働かずに酒におぼれ、喪失感に苦しむ母親は不倫の末に家庭を捨てて出ていってしまう。

 こんな設定が児童書として書かれることにショックを覚えつつも、読者はこれを自分の身の上にも起り得る現実として受け止め、向き合う。小説は時代を映す鏡である。

 テロは犠牲者とその家族にとって最大の理不尽だが、ジェイミーの日常はそれ以外にも理不尽なことで埋め尽くされている。転校した学校ではしつこくいじめられ、先生には理解してもらえない。

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