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【書評】通り過ぎるいくつもの死『神秘大通り (上下)』ジョン・アーヴィング著/小竹由美子訳

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【書評】
通り過ぎるいくつもの死『神秘大通り (上下)』ジョン・アーヴィング著/小竹由美子訳

『神秘大通り(上下)』ジョン・アーヴィング著/小竹由美子訳(新潮社・各2300円+税) 『神秘大通り(上下)』ジョン・アーヴィング著/小竹由美子訳(新潮社・各2300円+税)

 人生山あり谷ありと言う。しかし実際の人生で明暗がくっきり分かれることは少なく、幸せな日常の背後に一筋の影があったり、哀(かな)しい出来事のさなかで小さな曙光(しょこう)を感じたりする。薄明の中を歩くようなものなのだ。ジョン・アーヴィング『神秘大通り』は、そうした人生の様相を的確に捉えた作品である。

 老境にさしかかった作家、フワン・ディエゴ・ゲレロがフィリピンに旅立つことから物語は始まる。彼はメキシコ・オアハカの生まれで、10代のころにヴェトナム従軍を忌避して逃亡してきたアメリカ人の青年とある約束を交わしていた。それを遂行するための旅なのだ。その途次で魅惑的な母娘と出会って性的な冒険をしたことから、彼は常用薬の副作用で何年も遠ざかっていた夢を見るようになる。オアハカで過ごした少年期とフィリピン行とが重なる形で話は進んでいくのである。

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