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【書評】東京・高円寺の空気と平成の純情商店街『むーさんの自転車』ねじめ正一著

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【書評】
東京・高円寺の空気と平成の純情商店街『むーさんの自転車』ねじめ正一著

『むーさんの自転車』ねじめ正一著 『むーさんの自転車』ねじめ正一著

 これは、なかなか欲ばりな小説だ。一茶の俳句がちりばめられた俳句小説であり、少年が挫折を乗り越える成長小説であり、東京・高円寺や北長野の空気がたち上がってくるご当地小説でもある。

 主人公の正雄は高円寺の和菓子屋『松野屋』のひとり息子。婿養子で店に居場所のない父に反感をおぼえ、出入りの米屋の武藤さん、通称むーさんの自由さと豪快さにあこがれる。同級生とデートしてうかれるような普通の高校生だったが、ある日突然、父の借金が原因で松野屋が倒産すると聞かされる。

 高校を中退し、高円寺を追われるように出て行く正雄。親類に世話になるという母にはついていかず、むーさんとともにむーさんのふるさと長野に行くことを決心する。そこは、俳人、小林一茶が育った地でもあった。

 この小林一茶の俳句が重要なモチーフとしてたびたび紹介され、物語を引っ張っていっている。蛙や雀など弱いものへの愛情をあらわした一茶だが、その人生は苦悩に満ちていたという。しかし、俳句は軽妙でどこかとぼけた味わいがあり、この作品ではクッションのような役割を担っている。

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