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【書評】編集者、ライター・月永理絵が読む『夫婦の中のよそもの』エミール・クストリッツァ著、田中未来訳 まさに映画の一場面が次々

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【書評】
編集者、ライター・月永理絵が読む『夫婦の中のよそもの』エミール・クストリッツァ著、田中未来訳 まさに映画の一場面が次々

『夫婦の中のよそもの』エミール・クストリッツァ著、田中未来訳(集英社) 『夫婦の中のよそもの』エミール・クストリッツァ著、田中未来訳(集英社)

 一方で、物語からは著者自身の人生が透けて見える。父親の描写にはおそらくボスニア紛争時に亡くした実父との関係が、初めて読書の楽しさを教えてくれたおばさんのくだりには、ワルシャワに住んでいた実際の叔母の記憶が反映されているのだろう。ある評伝によれば、叔母の家への訪問が、彼がサラエボ以外の世界を知った初めての体験だったという。

 アレクサ少年のおかしな冒険譚(たん)は、彼が大人になる瞬間を描いて終わりを迎える。おとなの階段を上ることは、同時に世界の真理を発見することでもある。切なくも避けられない人生の一面。喜劇とセンチメンタルさの微妙な融合もまた監督らしい作風だ。

 また、独立短編「蛇に抱かれて」は、現在公開中の最新作『オン・ザ・ミルキー・ロード』の下敷きとなった物語。原作と謳(うた)ってはいないが、おおまかな部分は映画とほぼ同じ。ぜひ映画と併せて読むことをおすすめしたい。(集英社・2100円+税)

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