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【書評】文芸評論家、池上冬樹が読む『僕には世界がふたつある』 驚き、胸を揺さぶられる精神障害者の内的世界

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【書評】
文芸評論家、池上冬樹が読む『僕には世界がふたつある』 驚き、胸を揺さぶられる精神障害者の内的世界

『僕には世界がふたつある』 『僕には世界がふたつある』

 アメリカで最も権威のある文学賞の一つ、全米図書賞の児童文学部門受賞作である。物語は15歳の高校生ケイダンの一人称で語られる。

 ケイダンは毎日が怖かった。学校で誰かが自分を殺そうとしているのに誰も気づいてくれない。怯(おび)えた言動を両親や友達は変な目で見ている。一方でケイダンは、海賊船にも乗っていた。片目の船長や人間の言葉をあやつる片目のオウム、そのほか不気味な乗組員たちが世界一深い海をめざしていた。次々と危機が押し寄せるし、オウムは船長を殺せといってきかなかった。一体どうすればいいのか。

 精神障害者の内的世界を幻想的に、時にリアルに描いている。ファンタスティックな海洋冒険小説と、少年のリアルな闘病&成長小説が絡み合い、何とも不可思議な空間を作り出している。訳者が後書きで“まるでテリー・ギリアムとティム・バートンが共同監督で作ったファンタジー映画のような世界を舞台に、ナンセンスで奇妙な物語が展開する”というのも納得だ。

 一言でいうならこれは精神疾患という予測不可能な“航海”を、奔放なイメージと飛翔(ひしょう)するイマジネーションで語り尽くした小説である。語りはスピーディーで力強く、場面はナンセンスなようで鋭く印象的で、現実と夢がまざりあう世界は実に生々しく、悪夢を見ているかのような不安と恐怖が張りついている。

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