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【大学ナビ】岐路の私大「国私間格差是正を」 

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岐路の私大「国私間格差是正を」 

中央大学の酒井正三郎総長・学長 中央大学の酒井正三郎総長・学長

 □日本私立大学連盟常務理事 中央大学 酒井正三郎総長・学長

 その発祥は幕末維新期に遡(さかのぼ)り、わが国の教育の中枢を担ってきた私立大学。いま、類例のない苦境に直面しているという。日本私立大学連盟の常務理事を務める中央大学の酒井正三郎総長・学長に背景と提言を聞いた。(編集委員 関厚夫)

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 ▼OECD最低水準の助成

 「大学生総数の約4分の3が在籍する私大は歴史的に大きな役割を果たしてきました。例えば高度経済成長期以降の大学進学者の増大化や団塊ジュニア世代に向けた臨時定員増措置に迅速に対応し、主として受け入れてきたのは私大でした。その私大に対する公財政支出を経済協力開発機構(OECD)のほかの加盟国と比較してみてください。また私大はみなぎりぎりのところで経営しています。そんな現実-また窮状に国として向き合うべきときだと思います」

 酒井総長・学長の問題提起である。OECDの統計によると、日本の大学生1人当たりの年間公財政支出は、構成される35先進・新興諸国中、20位前後。ところが国立大生の比較では一気にトップクラスになる一方、私立大生の比較では最低水準に沈む。日本私立大学連盟によると、その額は国立大生の218万円に対して私大生は17万円(平成26年度)。国私間格差。私学だから当たり前-ではない。公財政支出のもととなる私学助成の補助割合は私立学校振興助成法成立時の参院付帯決議に「できるだけ速やかに(上限である)二分の一(5割)とするよう努めること」とあるにもかかわらず、昭和55(1980)年度の3割弱をピークに年々減少、平成27年度以降、1割弱まで落ち込んでいる。

 「私学助成の底上げは必要です。一方、高等(大学)教育無償化の議論についてはまだ提案段階でありますけれど、私大に補助金を交付するようなかたちで考えることには抵抗感があります。私大はそれぞれの建学の精神や理念に立ち、独自性、自立性を維持しながらわが国の教育に貢献してきました。ところが無償化となると、国が私大の管理・運営や教育・研究に介入するのが当たり前になる危険性があります。ですので、無償化については給付型奨学金を増やすなど学生個々の家計の実態に合わせた対応が現実的だと思います。もちろん、将来世代へツケを回さずに財源を確保するという前提のもとではありますが」

 ▼改革は歴史と貢献ふまえて

 中央大学の建学の精神は「實地應用(じっちおうよう)ノ素(そ)ヲ養フ」。初代校長、増島六一郎(ますじま・ろくいちろう)をはじめ18人の若き法律家たちが明治18(1885)年に「英吉利(イギリス)法律学校」として創設した。当時、論理的・抽象的なフランス法が重要視されていたが、近代化のためには実証主義的・経験主義的な英米法を学ぶことが「実地応用の道」との信念のもとに有為の人材を輩出していった。

 酒井総長・学長によると、「私大はみな、本学と同じような歴史をもっています」という。「そのなかで切磋琢磨(せっさたくま)しながら、明治維新後の近代国家、そして近代市民社会としての日本の発展を支えてきました。私大の歴史的な貢献は東大を頂点とする国公立大学にひけをとらないと思います」

 現在、私大の経営環境は厳しい。日本私立大学団体連合会の調査(平成29年度)によると、私大生が支払う納付額(主に授業料や施設設備費)の年平均は国立大生の納付額(主に授業料)より約65万円多い120万円。一方で日本学生支援機構の26年度調査では国立大生の家庭の平均年収額(839万円)が私大生の家庭の平均年収額(826万円)を上回った。「デフレ脱却と経済再生」がなお課題である現在、私大側が授業料の値上げによって家計に負担を求める状況にはない。また文部科学省は入学定員超過のさいの私学助成の不交付基準や新学部設立の不認可基準を厳格化。14日には東京23区内の大学の定員増については原則認めない改正案を公表した。

 酒井総長・学長は語る。

 「私大は、技術革新やその結果として社会に起きる変革のなかで、何が次の学問として必要かということを鋭敏に察知し、新学部をつくって新たな人材を育成し、社会に貢献してきました。いまの流れではそんな私大の役割を否定することにつながりかねません。むしろルールを定め、一定の実績を満たした私大については助成を厚くし、国公立大であっても実績が足りない場合にはその助成分を少しずつでも私大にまわす。そんなシステムの導入を考えるべきではないでしょうか」

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