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【書評】文化部編集委員・桑原聡が読む『柳家さん喬 大人の落語』柳家さん喬著 古典落語を滋味豊かに紹介

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【書評】
文化部編集委員・桑原聡が読む『柳家さん喬 大人の落語』柳家さん喬著 古典落語を滋味豊かに紹介

『柳家さん喬 大人の落語』柳家さん喬著 『柳家さん喬 大人の落語』柳家さん喬著

 柳家さん喬。芸歴50年。紫綬褒章も受けた。先日、初の著書である本書の出版を記念した落語会が深川江戸資料館で開かれた。メインは「雪の瀬川」。さん喬が静かに語り始めるや、ひと言も聞き漏らすまいと会場の空気はピーンと張りつめた。

 こんな噺(はなし)だ。大店(おおだな)の堅物の若旦那は父の勧めもあって吉原で遊ぶ。そこで出会ったのが瀬川花魁(おいらん)。彼女に惚(ほ)れ込んだ若旦那は通い詰め、ついには勘当されてしまう。思い詰めた若旦那は隅田川に身を投げようとするが、偶然通りかかった忠蔵に声をかけられる。彼は若旦那の店の奉公人だったが、同じ奉公人の女と恋仲となり駆け落ちした過去を持ち、いまはくず屋としてつましい生活をしている。忠蔵の家の居候となり、ひと月ほどで元気を取り戻した若旦那は瀬川に手紙を書く…。

 若旦那と瀬川の命がけの一途(いちず)な愛を、さん喬は無駄のない語り口で描き出す。客の想像力を信頼しているのだ。どういう「旅路」をへて現在のような描き方をするに至ったのか、落語ファンならぜひ聞いてみたいところだろう。ところが、さん喬は大の芸論嫌い。「お前の考えなんぞ誰も聞いちゃいねえ」という小さん師匠の言葉をいまなお大切に抱きしめているのだ。

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