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【書評】文芸評論家・池上冬樹が読む『五月の雪』クセニヤ・メルニク著、小川高義訳 美しさ持つ喜びや悲しみ

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【書評】
文芸評論家・池上冬樹が読む『五月の雪』クセニヤ・メルニク著、小川高義訳 美しさ持つ喜びや悲しみ

『五月の雪』クセニヤ・メルニク著、小川高義訳 『五月の雪』クセニヤ・メルニク著、小川高義訳

 饒舌(じょうぜつ)で刈り込む必要もあるが、それでも最後までくると、人生の不可思議さに思い至る。苛酷なロシア社会が背景にあるけれど、人間がもつ業のようなものも感じさせる。

 本書は短編集で、舞台はロシア極東の町マガダン。シベリア強制収容所があった所だが、思想犯として文化人も多数流されてきて、皮肉にも文化都市として発展もした。

 冒頭に置かれているのは「イタリアの恋愛、バナナの行列」。博物館の女性学芸員がモスクワを訪れ、行列に並んで大量の買い物をする話である。一方でイタリアのサッカー選手からデートの誘いをうけて迷いもする。浮気心の代償を払い、家族愛を確かめる話になるが、淡彩でありながら細部の焦点が明確で、暗くなりがちな結末を、衣装の小道具で華やかにしている。

 2番目は「皮下の骨折」。幼なじみからの電話を元に、同じ時期に結婚して、同じ時期に子供をもった夫婦2組の人生の変転を語る。そこにあるのはソ連の政治体制の崩壊であるが、作者は若き日のスキー事故に変転の契機を求め、運命の悪戯(いたずら)に話をもっていく。人生の澱(おり)が表面に浮かび上がるものの、不思議と気持ちよくからりと締めくくる。

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