産経ニュース

【書評】翻訳家・三辺律子が読む『母の記憶に』ケン・リュウ著、古沢嘉通・幹遙子・市田泉訳 「賞総なめ」SF作家第2弾

ライフ ライフ

記事詳細

更新

【書評】
翻訳家・三辺律子が読む『母の記憶に』ケン・リュウ著、古沢嘉通・幹遙子・市田泉訳 「賞総なめ」SF作家第2弾

『母の記憶に』ケン・リュウ著、古沢嘉通・幹遙子・市田泉訳(早川書房・2200円+税) 『母の記憶に』ケン・リュウ著、古沢嘉通・幹遙子・市田泉訳(早川書房・2200円+税)

 新鋭SF作家として注目されるケン・リュウの短編集『紙の動物園』は、ネビュラ賞やヒューゴー賞などの賞を総なめにした表題作をはじめ、日本でも高く評価され、好調な売れ行きを見せた。その面白さに驚嘆した後、訳者あとがきを読んで二度驚いたのを覚えている。「本書と同レベルあるいはそれ以上の作品集は、今後何冊も作れる」。これ以上のものが? 何冊も? 信じられない!

 だからこそ、第2弾作品集になる本書を読み終えたとき、沸々と喜びがわきあがった。歴史改変物(ありえたかもしれないもう一つの世界を描く)からロボットや宇宙旅行といったSFの設定に、ほのかに漂うノスタルジーと切なさ。中国で生まれ、アメリカに移住した作者ならではのアジアの香り。筆者が、普段SFを読まない読者にもリュウ作品を熱心に薦めるのは、こうした魅力ゆえなのだ。

 冒頭の「烏蘇里(ウスリー)羆(ひぐま)」は、20世紀初頭の満州が舞台。但(ただ)し、蒸気タービンで動く馬や人体が開発されている改変された世界だ。そこで繰り広げられる熊と片腕を機械化した男の壮絶な戦いは、吉村昭の『羆嵐(くまあらし)』をも思わせ、その取り合わせの妙にいきなり心をつかまれる。「存在(プレゼンス)」は、介護などをロボットが担う近未来が舞台だが、描かれる感情は、遙(はる)か昔から老親を持つ子が抱いてきたものだろう。

続きを読む

「ライフ」のランキング