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【書評】文芸評論家・細谷正充が読む『北斎まんだら』梶よう子著

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【書評】
文芸評論家・細谷正充が読む『北斎まんだら』梶よう子著

『北斎まんだら』梶よう子(講談社・1700円+税) 『北斎まんだら』梶よう子(講談社・1700円+税)

 絵師の業を見事に描写

 平成27年に刊行され、大きな話題を呼んだ『ヨイ豊』に続き、梶よう子が新たな絵師の物語を上梓(じょうし)した。しかも題材は、「富嶽三十六景」「北斎漫画」等の作品で、世界的に有名な葛飾北斎だ。これだけでどんな話か、期待が高まってしまう。

 といっても主人公は葛飾北斎ではない。信州小布施の豪商の息子・高井三九郎だ。ある悩みを抱え、北斎ならばそれに応えてくれるだろうと思った三九郎は、弟子入りを決意。しかし訪ねた北斎の家で、北斎と娘のお栄の奇矯な言動に面食らう。その後に出会った、渓斎英泉(けいさい・えいせん)も同様だ。

 お栄の火事見物につき合わされたり、女好きの英泉に引き回されて枕絵のモデルになるなど、てんやわんやの日々を過ごすことになった三九郎。そこに北斎の贋作(がんさく)や、北斎の孫で小悪党の重太郎も絡まり、彼は絵師の深き業を知ることになるのだった。

 絵のことしか考えていない北斎。がさつな大年増のお栄。軽佻(けいちょう)浮薄な英泉。優れた絵師であり、突き抜けた個性を持つ3人は、それぞれの絵師の業を抱えていた。軽妙なやり取りと、彼らに振り回されるお坊ちゃんの三九郎の姿を楽しんでいるうちに、それがあらわになっていく。かなりユニークな三九郎の悩みさえ、絵の肥やしとしか思わない北斎たちの姿勢は、天晴(あっぱれ)というべきだろう。

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