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【書評】
評論家・川本三郎が読む 「ご近所」だった街の記憶『私のつづりかた 銀座育ちのいま・むかし』小沢信男著 懐かしい昭和の銀座の記憶を活写
近年、東京に関する本は実に多く出版されているが、昔の東京を知っているこの古老の回想記は、体験の裏付けがあるだけに読み応えがある。
著者は、昭和2(1927)年、銀座の生まれ。昭和の子であり、生粋の東京っ子である。銀座にいまもある名門、泰明小学校を出ている。
家は新橋寄りにあり、「自動車屋」だった。ハイヤーの会社である。車の少ない当時としてはハイカラな仕事。
銀座は関東大震災で大きな被害を受けたが、その後の復興は思ったより早く、昭和の初め、鉄筋コンクリートの建ち並ぶモダン都市に生まれ変わっていった。
震災では市電が破壊され、震災後、それを補う形で自動車が普及していった。ハイヤーの会社を始めた父親は先見の明があったことになる。
この父親は教育熱心だったのだろう。著者の小学校時代の作文、図画をきちんと保存していた。
90歳になる著者は、いまそれを見ながら、懐かしい昭和の銀座を、子供時代を思い出す。作文と絵(うまい!)が貴重な資料になっている。