産経ニュース

【書評倶楽部】圧倒的筆致と奥深いテーマ 生きることとは何か? 落語家・桂文珍が読む『土の記(上・下)』高村薫著

ライフ ライフ

記事詳細

更新

【書評倶楽部】
圧倒的筆致と奥深いテーマ 生きることとは何か? 落語家・桂文珍が読む『土の記(上・下)』高村薫著

『土の記(上・下)』高村薫著(新潮社・各1500円+税) 『土の記(上・下)』高村薫著(新潮社・各1500円+税)

 本を読む楽しさはいろいろだが、ことに小説の場合、圧倒的筆致にウームとうならされるときがある。あるいはそのテーマの奥深さに気づかされ、マイッタナと思うことがある。今回の『土の記』はまさにそうだった。

 大学時代に地質学を学んでいた主人公の伊佐夫は、電機メーカーに入社した。縁あって奈良・宇陀の農家の養子となり、妻の昭代との間に子供を授かった。そのうちに孫もできたが、娘は離婚・再婚してアメリカに住んでいる。妻はある日、バイクに乗っていて事故に遭い、十数年間、寝たきりの生活を送った。あれは本当に事故だったのか? 自殺? 裏切り?

 いま、70歳を過ぎた伊佐夫は妻を見送って、宇陀の山中の棚田で土を耕して、ナマズとたわむれている。茶畑や田んぼの作業に日々追われ、村人たちとの付き合いにも変化はない。農業を営む者の連日の作業が細かく描かれていく。語り手であるはずの伊佐夫の記憶には、蛇口が錆(さび)で詰まって、水が出たり出なかったりするような、そんな認知症の症状がうかがえる。

続きを読む

このニュースの写真

  • 圧倒的筆致と奥深いテーマ 生きることとは何か? 落語家・桂文珍が読む『土の記(上・下)』高村薫著

「ライフ」のランキング