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【文芸時評】4月号 早稲田大学教授・石原千秋 『騎士団長殺し』の宛先

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【文芸時評】
4月号 早稲田大学教授・石原千秋 『騎士団長殺し』の宛先

石原千秋さん 石原千秋さん

 いま「正確に言おう」などと書いたのは、温又柔(おんゆうじゅう)「真ん中の子どもたち」(すばる)を読んだからである。母親が台湾人で父親が日本人で、幼い頃台湾に住んでいた天原琴子は、日本では母親の強い意志によって日本語で育てられた。しかし、台湾語も話すことはできる。その琴子が中国語を学ぶために上海の「漢語学院」に通ったところから話はややこしくなっていく。そもそも「漢語学院」では「中国語」は「普通話」と言う。琴子はその「普通話」がうまく話せないのだ。「だってもともと台湾人は中国語なんか喋(しゃべ)ってなかったんだもん」と、琴子の友人は言う。「台湾人」も「中国人」も「日本人」も「台湾語」も「中国語」も「上海語」もみな自明な概念ではなくなる。「線が、見えればいいのに。ここまでは、日本人。ここから先は、台湾人」。しかし、「線」はない。このめまいのするような混乱ぶりだけでも十分に読む価値がある。

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