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【書評】『銀の猫』朝井まかて著 「毒」もある江戸時代の介護

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【書評】
『銀の猫』朝井まかて著 「毒」もある江戸時代の介護

 これは一言で表せば、江戸時代の介護の小説である。主人公は離婚歴のある25歳のお咲。毒親である母のせいで借金を抱え、その返済と生活のために介抱人という割のいい仕事を、口入屋を通して請け負っている。

 設定が抜群に上手(うま)い。江戸時代の介護--もうこれだけで興味が湧いてくる。ほとんどの現代日本人が人ごとではなく、いずれは直面するだろうとても身近な問題だ。それだけに重くなりがちなテーマだが、本書は、舞台を江戸時代にもっていくことで、生々しさを巧みに回避している。

 人物配置も絶妙だ。出てくる老人たちは曲(くせ)者で、個性豊か。一筋縄でいかない連中だが、みな既視感溢(あふ)れる人々だ。口入屋の夫婦は儲(もう)け話に貪欲で、利にさとい。だからといって人情がまるでないわけでもない。そこに描かれる人間たちは、等身大で誰もが欠点も良いところも持ち合わせ、状況によってはどちらに転ぶかわからない危うさがある。

 主人公も完璧な人間でも、底抜けにいい人でもない。やっとの思いで稼いだ金をくすねて平気な母親に、「おっかさん、お願いだからいなくなって。あたしの前から消えて」と時に願わずにいられぬ切実さの中で生きている。実に人間臭く、たまらなくこの話を魅力的にしている。

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