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どう読みました?「騎士団長殺し」

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どう読みました?「騎士団長殺し」

村上春樹さんの新刊を買い求める人たち=2月24日午前0時、東京・神田の三省堂書店神保町本店(春名中撮影) 村上春樹さんの新刊を買い求める人たち=2月24日午前0時、東京・神田の三省堂書店神保町本店(春名中撮影)

 新しい部分といえば、登場人物が画家という設定。3年前に亡くなった親友、安西水丸さんへのレクイエム(鎮魂歌)か? また仏教的なシーンも登場し、僧侶であった村上氏の父親のことが思い起こされる。

 難しいことは考えなくていい。これは村上春樹演出のオペラなのだ。蜷川幸雄がシェークスピアを演出するようにモーツァルトの「ドン・ジョバンニ」を日本画の世界観でリメークしたエンターテインメント作品なのだ。装飾的な文章を音楽のように楽しめばいいのだ。

                   

 □文芸評論家・富岡幸一郎さん

 ■現代を描けぬ感傷的な声

 4年ぶりの長編、ファンならずとも期待は高まる。肖像画家の「私」という一人称で物語の糸は紡ぎ出され、謎の依頼人と接触するなかでミステリアスな興味も湧く。クラシック音楽、屋根裏部屋、ワインやウイスキーやセックスに車と村上ワールドの小道具も散りばめられ、神秘的な少女まで登場する。文明のメルヘンの趣である。

 ナチス支配下のウィーンや南京虐殺なども絡めていくが、「私」が対峙(たいじ)すべき現実は何処にもない。イデア、メタファーという言葉を導入するが、リアルな現実感覚の喪失のなかで、作品の言葉はときに圧縮され、ときに冗長に流れ去ってしまう。

 全編を通して「何か…」とのフレーズが反復される。「何かを描きたい」が「何もない」。主人公の描く肖像は「ただの無なのだ」。それは実は、作家自身の自画像ではないのか。この巨大なメルヘンから聴こえてくるのは、現代世界を描けなくなった小説家の感傷的な声なのである。

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