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【書評】詩人・中原かおりが読む 『本を守ろうとする猫の話』夏川草介著 猫は説く、本には心がある

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【書評】
詩人・中原かおりが読む 『本を守ろうとする猫の話』夏川草介著 猫は説く、本には心がある

『本を守ろうとする猫の話』夏川草介著(小学館・1400円+税) 『本を守ろうとする猫の話』夏川草介著(小学館・1400円+税)

 でっぷりと大柄で、深い翡翠(ひすい)色の目を持ち、傲慢ながらも思慮深い猫がこの物語のキーマンである。ベストセラー『神様のカルテ』の著者による本書は、人を救いたいという思いに満ちた同書と似て、本を救いたいという熱く真っすぐな思いが屹立(きつりつ)している。

 主人公の高校生、夏木林太郎は古書店「夏木書店」を営んでいた祖父を亡くし天涯孤独となった。薄暗い店内に引き籠(こも)る彼の元に、言葉を話す猫が本を助けるため「力を貸せ」とやって来る。1人と1匹は4つの迷宮へ行って本についての議論を繰り広げる。

 1つめの迷宮の敵は、5万冊の本を読む批評家。一度読んだら錠付きの書棚にしまい2度読むことは価値無しと豪語する「閉じ込める者」。2つめは、読書の効率化のため、本の味わいや難解さなどの無駄を「切りきざむ者」。3つめは、本は消耗品、売れることが全てなので要約やノウハウの本のみを良しとする「売りさばく者」。しかし、迷宮の敵たちも一概に敵とは言い切れないのかもしれない。本を愛するがゆえに価値を見失っていく者たちがそこにいる。

 現在、年間の書籍出版数は8万点といわれる。出版などの業界、著者などその一冊一冊に関わる人たちのもどかしさも随所で浮き彫りにされている。

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