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年末年始の読書の参考に…6人の選者による「2016 今年、私の3冊」
■東京ステーションギャラリー館長・冨田章
〔1〕『自画像の思想史』木下長宏著 (五柳書院・4800円+税)
〔2〕『非常識な建築業界 「どや建築」という病』森山高至著
(光文社新書・780円+税)
〔3〕『映画の奈落 完結編 北陸代理戦争事件』伊藤彰彦著
(講談社+α文庫・900円+税)
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〔1〕自画像を手がかりに、人類1万5千年の思想史を読み解こうという壮大な試み。どのページにも深い考察の跡を感じさせる文章が続く。600ページに及ばんとするこの仕事のために、どれくらいの思索が積み重ねられたかを想像すると気が遠くなる。他人の言説に拠(よ)るのではなく、作品と向き合うことによってのみ紡ぎ出される言葉の連なりに感銘を受けた。
〔2〕建築エコノミストである著者は、日本の建築業界に蔓延(まんえん)している非常識を次から次へと俎上(そじょう)にあげ、片っ端からダメ出しをする。その主張のすべてに納得するわけではないが、建築を新たな視点から見直すきっかけになる。読みようによっては毒にも薬にもなる刺激的な一冊。
〔3〕関係者への丹念な取材によって、東映の実録やくざ映画「北陸代理戦争」をめぐる虚構と現実の狭間をたどり、関わった人間たちの壮絶な生きようを描いたノンフィクション。一昨年に刊行されて話題になったが、文庫化に際して、一連の事件の裏側を知る人物から新たに得られた証言が加えられた。その内容は「完結編」の名にふさわしい驚くべきもの。松方弘樹への、すこぶる面白いインタビューとともに必読である。