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年末年始の読書の参考に…6人の選者による「2016 今年、私の3冊」
■書評家・西野智紀
〔1〕『拾った女』チャールズ・ウィルフォード著、浜野アキオ訳
(扶桑社文庫・950円+税)
〔2〕『過ぎ去りし世界』デニス・ルヘイン著、加賀山卓朗訳
(早川書房・1600円+税)
〔3〕『死者は語らずとも』フィリップ・カー著、柳沢伸洋訳
(PHP文芸文庫・1400円+税)
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〔1〕は、アメリカ犯罪小説界の巨匠が1955年に発表した小説。偶然の出会いから恋仲となった男女が破滅の道をたどる物語で、絶えず付きまとう精神不安と死の気配が苦しく哀(かな)しい。ところがこれは作者のたくらみの一部にすぎず、終局でさらなる暗黒に導かれ、読み手も自身に内在する闇に慄然としてしまう。読み継がれるべき怪作。
〔2〕は、第二次大戦中のフロリダを舞台とするクライム・ノワール。自分の興したビジネスと最愛の息子を守るため、再び非情な裏社会に足を踏み入れた元ギャングのボスの死闘を描く。暗殺者との相対、幽霊の幻視、激情を胸に秘めた駆け引きや裏切りといった、一筋縄ではいかない人間模様に酔いしれ、抗争の果てに現れる孤独の情景に、思わず落涙。絶品です。
〔3〕は、ナチズムを嫌悪する皮肉屋の探偵グンターを主人公とするシリーズ第6作。一言で説明すると、ユダヤ人排斥が進む1934年のベルリンに端を発し、キューバ革命前夜の1954年のハバナで終息する壮大な犯罪叙事詩。歴史の潮流を生々しく感じさせつつ、不可避の現実を突き付けていく迫力と技巧は驚嘆の一言である。続刊の邦訳を待ち望む。