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【書評】書評家・豊崎由美が読む『酔狂市街戦』戌井昭人著 愛すべき「ダメ」な人々

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【書評】
書評家・豊崎由美が読む『酔狂市街戦』戌井昭人著 愛すべき「ダメ」な人々

『酔狂市街戦』戌井昭人著 『酔狂市街戦』戌井昭人著

 どんなに自分はきちんとした生活を送っていると言い張ろうが、来し方に後悔の二文字はないと胸を張ろうが、清廉潔白な人格を誇ろうが、すみません、それ、多分錯覚です、もしくは思いこみです。というか、そんな自慢してること自体が、すでにダメ。でも、安心してください、ダメじゃない人間なんていませんから。ただ、愛すべきダメと、憎むべきダメの違いは歴然とあって、戌井昭人の小説に出てくるダメ人間はといえば、圧倒的に前者なのだ。

 たとえば、最新短編集『酔狂市街戦』の表題作。結成当初こそ少しは注目されたけれど、今は、ライブをやっても20人くらいの客のほとんどが知り合いか身内という状態のバンドのメンバーが、くだらない内輪もめの末に、京都で妄想の市街戦を戦うという、かなりダメな状況を描いて笑いを誘う話になっている。

 デビュー作『鮒のためいき』からずっと、小説の中に必ずダメ人間を登場させてきた戌井昭人。人外を生きるアウトローと言えればカッコイイのだけれど、戌井作品に出てくる男や女は、明確な意志をもってこの世の際から足を踏みはずしてしまうわけではない。易(やす)きに流れたり、一生懸命は一生懸命でも的はずれな懸命さによって知らず知らず道をはずれてしまう、そんな行き当たりばったりなアウトローぶりを見せるのだ。

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