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【書評】文芸評論家・池上冬樹が読む『ミスター・メルセデス 上下』スティーヴン・キング著、白石朗訳

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【書評】
文芸評論家・池上冬樹が読む『ミスター・メルセデス 上下』スティーヴン・キング著、白石朗訳

『ミスター・メルセデス 上下』スティーヴン・キング著、白石朗訳 『ミスター・メルセデス 上下』スティーヴン・キング著、白石朗訳

 ■饒舌で厚みあるミステリー

 モダンホラーの旗手スティーヴン・キングが純然たるミステリーを書いた。『ミスター・メルセデス』である。デビューして40年、ホラー系のブラム・ストーカー賞、SFファンタジー系の英国幻想文学大賞などを複数受賞したが、本書でアメリカ探偵作家クラブ賞(MWA賞)最優秀長篇賞を初受賞している。

 就職探しの者たちが並ぶ列に暴走したメルセデスが突っ込んだ。死者8名、重傷者多数。運転手は逃亡し、無差別殺人は未解決に終わった。

 事件の担当だった元刑事ホッジスのもとにある日手紙が届く。殺人は“猛烈に楽しかったよ”“ざまを見やがれ、負け犬”という犯人「ミスター・メルセデス」からの挑発の手紙だった。ホッジスは離婚して生きる目的を失っていたが、手紙に刑事魂がよみがえり、次の犯行の前に何としてでも捕まえようとする。

 純然たるミステリーといったけれど、日本のミステリー観からいえばキングの小説はみなミステリーである(ホラーは広義のミステリー)。要するに超自然の要素やホラー小説的結構によらずに犯罪を正面から描いたということで、正直言って本格ファンが期待する謎解きの要素は少ない。キングらしく相変わらず饒舌(じょうぜつ)な語りを駆使して(だから冗漫なところもある)厚みのある物語に仕立てている。

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