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【書評】社会学者・古市憲寿が読む『シスト』初瀬礼著 「二重の絶望」スリリングに

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【書評】
社会学者・古市憲寿が読む『シスト』初瀬礼著 「二重の絶望」スリリングに

初瀬礼『シスト』(新潮社・1800円+税) 初瀬礼『シスト』(新潮社・1800円+税)

 この絶望的な状況に主人公がどう立ち向かうかが物語の醍醐味(だいごみ)。若年性認知症は、加齢により発症する老人性認知症と同様、最終的には物事を何も認識できなくなってしまう。しかも抜本的な治療法はない。主人公にスーパーヒーローを据える小説や漫画が多い中、本書では世界のみならず、主人公までが絶望的な状況にあるのだ。

 「二重の絶望」を軸に進行するが、読み進めるのがつらいような陰鬱な小説ではない。むしろ逆だ。語弊があるがワクワクするような恐怖に思わずページをめくってしまう。展開が早く、描写も丁寧だから、普段小説を読まない人も、近未来安全保障シミュレーションとして楽しめる。

 著者はテレビ局に勤務し、報道畑を歩んだというだけあって、緊急事態の際の日本社会やマスコミに関する描写は極めてリアル。一方でテレビ局勤務にもかかわらず映像化の狙いがないのかと思わせるほどスケールの大きい快作だ。(新潮社・1800円+税)

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