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【書評】文芸評論家・友田健太郎が読む『尻尾と心臓』伊井直行著 厚みをもった「会社員小説」

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【書評】
文芸評論家・友田健太郎が読む『尻尾と心臓』伊井直行著 厚みをもった「会社員小説」

『尻尾と心臓』伊井直行著(講談社・1800円+税) 『尻尾と心臓』伊井直行著(講談社・1800円+税)

 主人公は協力して働く2人の会社員だ。九州の食品問屋・柿谷忠実堂から東京の子会社・カキヤに出向した男性、乾紀実彦と、外資系コンサルタントから転身した変わり種の女性、笹島彩夏。2人はともに新規事業の営業用GPSシステムを開発し、カキヤに導入する任務を負っている。しかしカキヤは親会社との関係が悪く、強烈な個性を持つカリスマ社長岩佐をはじめ、社員もみないい顔をしない。開発の上でも問題が発覚するなど、次々と難題が立ちはだかる。

 新製品開発をテーマとするよくある企業小説と思うかもしれないが、本作の読み味はかなり異なる。それはこの小説が、企業小説では背景としてしか描かれないことが多い登場人物の家族との複雑な関係や揺れ動く内面を描き、会社員を人間として丸ごと捉えようとしているからだ。笹島は子供のとき自分の母親の職場を訪ね、社会人としての「仮面」をかぶっていた母親を目撃する。その経験を原点に、働くことの人生における意味について考え続けている。乾は九州に家族を残し単身赴任しているが、家族との距離に悩んでいる。岩佐は創業時代に苦楽を共にした妻と、顔も合わせない家庭内別居に陥っている。

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