産経ニュース

【書評】東京大学教授・斎藤兆史が読む『英語という選択 アイルランドの今』(嶋田珠巳著) 母語の喪失が意味するもの

ライフ ライフ

記事詳細

更新

【書評】
東京大学教授・斎藤兆史が読む『英語という選択 アイルランドの今』(嶋田珠巳著) 母語の喪失が意味するもの

「英語という選択 アイルランドの今」 「英語という選択 アイルランドの今」

 イギリスがEUを離脱すれば、英語がその公用語から外れる可能性がある。そうなればEU加盟国アイルランドの国民が「憤慨」するだろうと伝えている記事を目にしたが、同国の言語状況を知らない記者が書いたものか。普段使っている言語が公用語でなくなると困惑するはずだとの思い込みがあるのかもしれないが、英語に対するアイルランド人の思いはそれほど単純ではない。そもそも英語は同国の国語ですらない。

 そのことを改めて教えてくれるのが本書である。本書は、イギリスによる植民地支配の結果として起こったアイルランドにおけるアイルランド語(ゲール語)から英語への「言語交替」を、その歴史的経緯と現状、言語政策、アイルランド人の言語意識、アイルランド英語の言語的特徴など、さまざまな観点から論じた本である。実際にアイルランドに留学した経験を持つ言語学者の手になる本だけに、説得力のある分析と議論が細部まで行き届いている。本書はまた、単にアイルランドの言語状況だけでなく、母語を奪われるとはどういうことか、国として使用言語を選択するとはどういうことか、民族語を継承するとはどういうことかなど、人と言語との関わりについて多くのことを教えてくれる。

続きを読む

「ライフ」のランキング