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【書評倶楽部】災害と向き合う創作の足跡 『「轟音の残響」から 震災・原発と演劇』 演劇ジャーナリスト・永井多恵子

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【書評倶楽部】
災害と向き合う創作の足跡 『「轟音の残響」から 震災・原発と演劇』 演劇ジャーナリスト・永井多恵子

ジャーナリスト、永井多恵子さん ジャーナリスト、永井多恵子さん

 □国際演劇評論家協会日本センター編

 4月に熊本県で発生した地震など、今年も災害国・日本の現実が私たちを不安にさせている。本書は災害によって心に傷を負った人々に「音楽は、演劇は何ができるのか」を問いかける一冊だ。

 5年前、東日本大震災の直後から東北の演劇人たちは活動を開始、NGOと連携して三陸地方から宮城県沿岸をトラック舞台が巡演した。仙台を拠点に活動していた石川裕人は戯曲「方丈の海」を書き上演した。本書のタイトルは、遺作となったその戯曲の言葉からとられている。

 〈町を軽々と押しつぶし、なぎ倒すときの轟音(ごうおん)の残響がまだ耳に残っている、そのあとに来たのは静寂だった〉

 二兎社は、福島第1原発から75キロの場所にあった宮城県仙南地域のホールで行った無料の演劇公演に避難所からの観客を迎えた。「こんな時に演劇か」という声もあったようだが、館長の決断だった。観客の中には生まれてはじめて演劇公演を観たという人もいた。ロビーは久しぶりに再会して互いの無事を喜びあう人々であふれた。劇場が地域の広場となったのだ。

 災害は人々を悲惨に陥れるが、同時に根源的な思考を呼び覚ましもする。生きるために必要なものは何か-。大津波につづいて原発事故に見舞われ、近親者を失った被災者が口走った「電気なんかいらない!」という悲鳴に近い叫びを私は忘れることができない。アーティストたちも創作を通じて災害に向き合っている。野田秀樹の「南へ」、前川知大の「奇ッ怪」、小野寺修二の「あらかじめ」、ベルギーのシェルカウイによる「テヅカ」…。

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