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【書評】学習院大学教授・中条省平が読む『松本俊夫著作集成I 一九五三-一九六五』(松本俊夫著)

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【書評】
学習院大学教授・中条省平が読む『松本俊夫著作集成I 一九五三-一九六五』(松本俊夫著)

「松本俊夫著作集成I」 「松本俊夫著作集成I」

 ■ハードかつ明晰な論考  

 松本俊夫は1969年に初の長編劇映画『薔薇(ばら)の葬列』を発表して、センセーションを巻きおこした。当時、大島渚と今村昌平をトップランナーとしてきた日本映画に、従来とはまったく異なる映画の作り方があることを示し、世界映画の最前線に並んだのだ。

 題材は古代ギリシャのエディプス神話で、主人公を現代日本のゲイボーイにして、原作の有名なドラマを、母を殺し父と交わる物語に転換してしまった。主役を演じたのは、映画初出演の美少年ピーター(後の池畑慎之介)だった。

 だが、それ以前に松本俊夫は、実験的記録映画の旗手であり、さらに、日本の映画理論の水準を格段に高めた批評家として知られていた。私はそのころ中学生だったが、松本の批評集『映像の発見』と『表現の世界』を読み、映画を見、文学を読み、芸術を享受することの根源的な意味と、それを言葉で論理的に説明するやり方を教わった。当時の芸術を志す若者への松本の影響力の大きさは、今では信じられないだろう。

 だが、ここへ来て、松本俊夫の再評価の波が大きく起こっている。気鋭の映画監督・筒井武文は10年かけて、なんと11時間40分のドキュメンタリー『映像の発見=松本俊夫の時代』を昨年完成したし、全文業を網羅する『松本俊夫著作集成』(全4巻)がついに刊行されはじめた。

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