産経ニュース

【書評】小樽商科大准教授・佐々木香織が読む『不平等との闘い ルソーからピケティまで』稲葉振一郎著

ライフ ライフ

記事詳細

更新

【書評】
小樽商科大准教授・佐々木香織が読む『不平等との闘い ルソーからピケティまで』稲葉振一郎著

■経済学の課題を浮き彫りに

 21世紀、不平等と格差は経済学と社会学の課題として復権した。しかし経済学では、成長による社会全体の底上げか、不平等の拡大か-という二者択一議論に収斂(しゅうれん)されがちだ。社会学でも平等という価値に基づく雇用格差改善策に帰結しやすい。本書はこれらどれにも偏らずルソー(不平等)対スミス(経済成長)に始まる経済学の歴史を振り返る中でこの問題に取り組む。

 経済学の主流たる新古典派では、生産・消費・労働など経済活動の総量が市場により最適化されると考えてきた。市場に一任するため、富の分配に対する経済成長への影響を考慮する必要もなく、さらにクズネッツ曲線(期間をおけば成長による格差拡大率が縮小)の実証にも成功する。

 ただし冷戦後、この見解は再検討を迫られる。曲線と実態は乖離(かいり)し、フランスの経済学者、トマ・ピケティの『21世紀の資本』(2014年刊)が富の偏在を歴史統計的に証明したからだ。しかし経済学では、成長と格差拡大は実証されても、成長、分配、そして格差に対する視座が定まらない。作者はこのジレンマを看破し、自ら「不平等ルネサンス」と呼ぶ経済学の現状への課題にこの点を配置する。

 格差や不平等の問題に対しても、本書は被雇用者を「労働力商品」か「人的資本」と捉えるかで、処方箋が異なることを示唆する。彼らが商品ならば、賃金は労働対価ではなく働き手の生存水準に見合って給付され、資本ならば、人への教育が投資対象になり人材も能力給で雇用される。

「ライフ」のランキング