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【文芸時評 6月号】不機嫌なメッセージ 早稲田大学教授・石原千秋 

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【文芸時評 6月号】
不機嫌なメッセージ 早稲田大学教授・石原千秋 

石原千秋さん 石原千秋さん

 中村文則「私の消滅」(文学界)は、記憶を複雑に操作する話で、「私」とは「脳」の「記憶」のことだと決めたようだ。別の言い方をすれば、「私」とは「脳」の「記憶」だと決めたからこそ、「記憶」の操作で「私」が消滅できるという仕掛けになったのだろう。これ自体はどうということもない。ただふっと思ったのは、もしiPS細胞が脳を作れるようになったら、それでも僕たちはこの技術を受け入れるだろうかということだ。現代の医学は常に「私はどこまでか」という問いを突きつけてくる。

 伊藤氏貴「女性同性愛の文学史、あるいは『レズビアン』という不幸」(同)がいい。同性への愛が女学校の「S」関係を経て「レズビアン」という「アイデンティティ」を手にして、若者が魅力を感じなくなっている「結婚」を志向することに「問題」を見いだしている。なぜ「レズビアン」に国家の承認が必要なのか。連載だから、今度が楽しみだ。

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