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【書評】文芸評論家・重里徹也が読む『イヤシノウタ』(吉本ばなな著) 独特な感性で幸せ求める

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【書評】
文芸評論家・重里徹也が読む『イヤシノウタ』(吉本ばなな著) 独特な感性で幸せ求める

(新潮社・1400円+税) (新潮社・1400円+税)

 日々の生き方を見つめ直すエッセー集。81編から成る。いずれも、やわらかな言葉で静かに思索を深めている。自身の来し方を振り返り、社会のありようを眺め、旅先で感じたことをつづり、幸せとは何かと問いかける。

 あちこちで独特な感性が光る。鋭敏なセンサーが日々の移ろいの中に、かけがえのないものをとらえる。

 たとえば、友人と歩いた代々木公園で見た、じゅうたんのようなイチョウの葉。夜中に光って世界を癒やすネコ。焼き鳥店で目にした恋愛体質の旧友の女神のような笑顔。

 外国と日本を肌感覚で比較するのも興味深い。ソウルの朝は活気の渦が街から、わいて来るような感じがする。ミラノで迎える朝に青空を見上げながら、ふっと目を閉じて感じるのは湖や山の存在だ。いずれも、東京が失ってしまったエネルギーだという。

 もちろん、作家のしたたかな眼差(まなざ)しは「人間の業」を見据えている。カネや男女関係をめぐる人間模様も冷静に浮き彫りにされている。

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