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【書評】文芸評論家・伊藤氏貴が読む『あるいは修羅の十億年』古川日出男著

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【書評】
文芸評論家・伊藤氏貴が読む『あるいは修羅の十億年』古川日出男著

震災後の広壮な未来絵図

 タイトルは言うまでもなく宮澤賢治の「春と修羅」の序からとられている。それは、はかなく明滅する「ひとつの青い照明」にすぎない「わたくしといふ現象」にはじまりながら「新生代沖積世の巨大に明るい時間の集積」という広がりに至る、微細さと壮大さ、刹那と悠久を兼ね備えた詩だった。古川もここで広壮な未来絵図を展観するが、それは社会にとってはとるに足りぬちっぽけな人々の目を通してである。しかし、そんな小さな存在がいかにして世界のありようを示しうるのか。

 いや、たった一人が何の中間項も経ずいきなり世界全体と結びつく事態こそ、今われわれが現在進行形で目にしていることではないだろうか。舞台である2026年ともなれば、グローバル化は既成の一切の境界を無化して、個々人が重層的に直接世界と関わるようになっているだろう。

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