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【日本を語る】
ドナルド・キーンさんが評伝「石川啄木」で言いたかったこと 「彼と私は友達にはなれない」けど…
孤独と貧困にあえいだ現実生活を3行書きの短歌でうたった石川啄木(1886~1912年)。日本文学研究者のドナルド・キーンさん(93)が、この夭折(ようせつ)の天才の生涯をたどる評伝『石川啄木』(角地幸男訳、新潮社)を出した。日記や手紙など膨大な資料をもとに、今年生誕130年を迎えた啄木の現代性を浮かび上がらせる。(海老沢類)
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キーンさんは約70年前に英訳で啄木を知り、初めて日本語で書いた論文の題材にも選んでいる。「深い関心が続きました。すべての歌が面白いとは言えないけれど、いいものを選んだら100かそれ以上。彼の現代的な面をますます感じるようになったのです」
謎と矛盾
表紙写真のあか抜けた帽子姿も現代人・啄木のイメージ。最初の章では代表作『一握の砂』(明治43年)と『悲しき玩具』(45年)からこんな短歌を引いた。
〈我に似し友の二人よ/一人は死に/一人は牢を出てて今病む〉
〈曠野(あらの)ゆく汽車のごとくに/このなやみ/ときどき我の心を通る〉