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【文芸時評4月号】戦争という名のエロス 早稲田大学教授・石原千秋 

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【文芸時評4月号】
戦争という名のエロス 早稲田大学教授・石原千秋 

石原千秋・早大教授 石原千秋・早大教授

 「週刊読書人」(3月4日)が、慣例の「芥川賞について話をしよう」を掲載している。小谷野敦と小澤英実の対談である。例によって小谷野敦の評価は厳しいが、小澤英実は小谷野敦の発言をフォローしながら言うべきことはきちんと言っている。たとえば、僕がこの欄で滝口悠生の『死んでいない者』について述べた「意味のあるつまらなさ」を、小澤は肯定的な評価として引用し、小谷野は否定的に引用して「つまらない」と切って捨てる。

 小谷野敦は、受賞作だけでなく、候補作全部をほぼ全否定。僕の「死んでいない者」評価は変わらないが、小谷野敦がこの小説を「芥川賞テイスト」と位置づけ、芥川賞を取るには面白くてはダメで、「芥川龍之介だって、初期作品では、絶対に芥川賞を受賞できない」とするのには全面的に賛成する。

 芥川賞の受賞理由にときおり出てくる「実験小説」という言葉が前から気になっていて、「実験小説はもう古い」という趣旨のことを何度か書いた。芥川賞は「実験小説」に寄りすぎていて「つまらない」し、直木賞は「通俗小説」に寄りすぎていて底が浅い。かつて「中間小説」という言葉があったが、いま芥川賞テイストと直木賞テイストの中間を「中間小説」と呼んでみたい。そして、芥川賞はときには「中間小説」に賞を出せばいいと思う。でないと、芥川賞も直木賞もテイストが固定しすぎて痩せた小説しか受賞できなくなってしまう。「こういう面白い小説も好きです」という選考委員がいてもいいではないか。

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