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【追悼】津島佑子さん 開かれた心と態度の虜に 作家・星野智幸

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【追悼】
津島佑子さん 開かれた心と態度の虜に 作家・星野智幸

インタビューに答える津島佑子さん =平成25年2月 インタビューに答える津島佑子さん =平成25年2月

 私が津島佑子さんと親交を深めたのは、2000年代前半のこと。日本の作家の有志が自分たちの手弁当でインドまで行って、じかにインドの作家と会おうという企画「日印作家キャラバン」に参加したときだった。津島さんの強い希望で、長らく迫害されてきたベンガル州の先住民の村を訪ねた。津島さんは、長老が語る村の文化や歴史を熱心に聞き、録音していた。だが私ときたら、長老の肘の皮のシワが寄っている部分に目を奪われていた。濃くなっていて、まるで模様に見えるのだ。

 後で津島さんにそのことを告げると、「私も! そこが印象に残っちゃって」と返ってきた。私は、津島さんもだったのか、と嬉しくなった。自分を棚に上げて、津島さんたらまるで無邪気な子供だな、と共感していた。

 こうして言葉で書くと他者の異質性を強調する差別になりかねないが、私と津島さんがあのとき受け取っていたのは、その土地に住む人の具体的でリアルな感触だった。それを津島さんとは共有していると知って、自分は津島さんとは気心を通じ合わせられる、と嬉しくなったのだ。そして、実際、その通りになった。

 日印作家キャラバンは、津島さんがインドの作家と、欧米での評価を通じてしかお互いの文学を知る機会がないのは変だ、と意気投合し、始めたものだ。公のイベントや誰かの企画に頼るのではなく、自分でする。これこそ、津島さんらしさが十全に発揮された行動だった。形式的にではなく、じかに見知らぬ他人と触れ合おうと熱望するこの開かれた心と態度に、私はすっかり虜となった。そして、まるで津島さんの小説の中にいるようだと感じた。津島さんの作品には、人とのダイレクトな接触を求めて、熱に憑かれたように大胆な行動に走る、特に女性たちがたくさん登場する。そのように行動することの、何と熱くすがすがしく、心地のよいこと!

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