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【編集者のおすすめ】人を信じることができるか 『怒り(上・下)』吉田修一著

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【編集者のおすすめ】
人を信じることができるか 『怒り(上・下)』吉田修一著

『怒り(上)』吉田修一著(中公文庫・各600円+税) 『怒り(上)』吉田修一著(中公文庫・各600円+税)

 夫婦惨殺現場に残されていた「怒」の血文字。整形し、逃亡を続ける犯人の行方は知れず、事件から1年後。千葉の港町で暮らす洋平・愛子親子、東京の大手企業に勤めるゲイの優馬、沖縄の離島で高校に通う泉という3組の主人公の前に、それぞれ前歴不詳の3人の男が現れる-。

 このように幕が上がる本作。3地点の物語が並行して進み、最初は「この3人のうちの誰が犯人なのか?」という謎解きの興味で引っ張られるが、読み進むうち、その気持ちが変化していく。

 3組の主人公は、各人が表に出すことのできない鬱屈を抱えている。そんな彼らが、よそ者である男に心を許し、不安定な「愛」が生まれるとき、「誰もが犯人であってほしくない」と祈るような思いがこみ上げてくるのだ。

 そしておとずれる衝撃のラスト。言葉をなくし、本を閉じた後に浮かんできたのは、「相手の何を知れば、その人を信じることができるのか」という大きな問いだった。

 著者の吉田修一氏が、「自分にとってこれほど切実な作品はない」と語る本作。2年前の単行本刊行と同時に李相日監督による映画化が決まり、主演の渡辺謙さんをはじめ、空前の豪華キャストが集結。全国東宝系で、9月公開が決まっている。

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