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【書評】書評家・倉本さおりが読む『死んでいない者』(滝口悠生著)

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書評家・倉本さおりが読む『死んでいない者』(滝口悠生著)

【大書評】『死んでいない者』滝口悠生著(文芸春秋・1300円+税) 【大書評】『死んでいない者』滝口悠生著(文芸春秋・1300円+税)

通夜の場の明るさと豊かさ 

 通夜の晩。ゆかりのある者たちが故人を取り囲んで酒を酌み交わしながら、ああだこうだと思い出話を語り合う。

 たいていの作品の場合、そうやって口々に語られるエピソードからひとつの大きな物語-つまり生前の故人の姿が立ちのぼる仕組みになっている。ところがこの小説において語られるのは故人そのひとではない。次々に明らかになっていくのは、むしろその周縁にいる「死んでいない者」たちの姿のほうであり、通夜の場に満ちる、あの不思議な明るさや混沌(こんとん)とした豊かさそのものなのだ。

 大往生の末に亡くなったのは一族の家長。子は5人、孫は10人。そこに曽孫や配偶者まで加わった、なんとも大所帯な通夜の場が本書の舞台。もはや当人たち同士でさえ歳の離れたいとことおじおばの区別がつかない。その結果〈自分のことを誰だかよく理解していない目の前の老人が、やはり誰なのかよくわからずに酒を注いでいる〉という、コントみたいにすっとぼけた光景が広がることになる。

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