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【文芸時評】2月号 小説は時代を映すか 早稲田大学教授・石原千秋

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【文芸時評】
2月号 小説は時代を映すか 早稲田大学教授・石原千秋

 芥川賞が、滝口悠生「死んでいない者」と本谷有希子「異類婚姻譚」に決まった。「あれッ? こっちも」という感想を持ったが、「そういえば、異類婚姻譚系の小説は女性作家に多いなあ」と思い至った。それだけ現代の女性には「結婚」という制度や「男」という制度が「異類」に映っているのだろう。現代女性の代表として受賞したのかもしれない。いずれにせよ、「該当作なし」よりはるかにいい結果である。受賞作品があれば、その時代を象徴するかもしれない小説として記録されるからだ。

 前にも書いたが、文化人類学者のレヴィ=ストロースが「かつて神話が消えたように、いま小説が文学から消えようとしている」という趣旨の発言をしたのは、もう40年も前のことである。ここで言いたいのは、「小説はまだ生きているではないか」ではない。もっと残酷なことだ。神話が消えても神話研究は残っている。それと同じように、小説が消えても小説研究は残るだろう、もし小説が時代を映しているならば、ということだ。芥川賞受賞作は、そういう未来の指標ぐらいにはなる。だから、せめて毎回必ず受賞作を出しておいてほしい。こういう想定をしておいた方がいい時代が、もうそこまで来ていると思う。

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