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【書評】詩人・中原かおりが読む『べつの言葉で』(ジュンパ・ラヒリ著、中嶋浩郎訳)

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【書評】
詩人・中原かおりが読む『べつの言葉で』(ジュンパ・ラヒリ著、中嶋浩郎訳)

(新潮社・1600円+税)

語学への恋は必然だった

 かつて夏目漱石が 「I love you」を「月が綺麗(きれい)ですね」と訳したという逸話がある。翻訳を読む際、しみじみ思うのは言葉の壁だ。ダイレクトに原文を感じられないもどかしさと、異言語の物語の世界に浸(ひた)れる幸せ。

 『べつの言葉で』は、ジュンパ・ラヒリがイタリア語で書いたエッセー集である。ラヒリはベンガル人だが生まれはロンドン、幼少期に両親と渡米した移民2世。アメリカに住んでも家庭内ではベンガル語、一歩外へ出ると英語の環境で生きてきた。そして英語で書いた小説でピュリツァー賞を受賞、その後も数々の賞を取り、世界的な名声を手にしている。

 そのラヒリが恋に落ちた。めぐりあいは20年前のイタリア旅行。それからずっと胸の奥に巣くっていた思いが抑えきれなくなる。しかし、恋の相手は人間ではない、イタリア語だ。ついには学び、書くために40歳を過ぎて夫と2人の息子とともにローマに移住する。

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