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【書評】文芸評論家・細谷正充が読む『頂上至極』村木嵐著 木曽三川の治水工事を題材にした先達2名作に比肩する物語

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【書評】
文芸評論家・細谷正充が読む『頂上至極』村木嵐著 木曽三川の治水工事を題材にした先達2名作に比肩する物語

【大書評】『頂上至極』村木嵐著(幻冬舎・1600円+税)

 宝暦年間に行われた、薩摩藩による木曽三川の治水工事-いわゆる宝暦治水については、杉本苑子の歴史小説『孤愁の岸』、平田弘史の劇画『薩摩義士伝』と、すでに2つの優れた作品が発表されている。その宝暦治水に、俊英・村木嵐が挑んだ。さて、どんなものかと本を開いたが、先達の名作に比肩する、堂々たる歴史小説であった。

 宝暦3年末、薩摩藩は幕府より、濃尾平野を流れる木曽川・長良川・揖斐川の御手伝い普請を命じられる。莫大(ばくだい)な金子と藩士を投入し、三川の治水工事を始めた薩摩藩。しかし、幕府・尾張藩・交代寄合衆の勢力が並ぶ土地で、輪中の民と呼ばれる一筋縄ではいかない農民を雇っての工事は困難を極める。それでも総奉行を引き受けた国家老の平田靱負(ゆきえ)は、幾多の藩士の憤死を乗り越え、工事の完成を目指していくのだった。

 宝暦治水を扱った作品では、よく薩摩藩の力を削(そ)ごうとする幕府の圧迫と、それに耐える薩摩藩士という構図が採られている。だが本書は違う。長年にわたる木曽三川の水害に土地の人々は心を折られ、役人から農民まで、誰もが濁流のうねりに絶望している。そのしわ寄せが、治水工事を託された薩摩藩に、集中したとしているのだ。単純な善悪に色分けすることなく、ニュートラルな視点で自然に立ち向かう人々を描いたところに、本書のオリジナリティーと魅力がある。

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