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【書評】書評家、西野智紀が読む『羊と鋼の森』宮下奈都著 仕事の伸び悩み…森をさまよい始めた人へ 

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【書評】
書評家、西野智紀が読む『羊と鋼の森』宮下奈都著 仕事の伸び悩み…森をさまよい始めた人へ 

『羊と鋼の森』宮下奈都著(文芸春秋・1500円+税)

 物語は、北海道の山間の集落で育った一人の青年が17歳のとき、放課後の体育館で、ピアノが「森の匂い」のする音色を放つのを聞いたことに始まる。鍵盤を押すと、羊毛でできたフェルトのハンマーが、対応する鋼の弦を叩(たた)く。ピアノが音を出す仕組みだが、彼が森を感じたのは、演奏ではなく、調律であった。本書は、その音色に導かれるようにして、調律という森の中に飛び込んだ青年・外村の成長を描く長編小説である。

 専門学校で2年修業したのち、「森の匂い」を立ち上らせた調律師・板鳥と同じ楽器店に就職した外村だったが、ピアノの経験もなければ音感もなく、音楽の知識にも乏しいことを引け目に思い続けている。あまつさえ、調律の技術にも自信を持っていない。そんな、情熱はあるけれど良くも悪くも実直すぎる彼に対し、板鳥をはじめ、先輩調律師たちはさまざまな言葉を授ける。「この仕事に、正しいかどうかという基準はありません」「堂々としていたほうがいいんだ。不安そうな調律師なんて誰も信じないからさ」…。

 先輩について回るうち、外村はアドバイスの意味を悟っていく。たとえば、お客さんから「やわらかい音にしてほしい」と注文されたとする。このとき調律師は、お客さんのイメージする「やわらかい音」を共有する必要が出てくる。さらには、お客さんの技量、ピアノの特性、ピアノのある部屋の音響から湿度まで、考えられる限りの条件を加味して、お客さんの要望にかなった音を提示することが求められる。つまり、基本的な技術以上にちょっとやそっとでは身につかない感性や経験が問われるのである。

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