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【書評】文芸評論家・聖徳大教授の重里徹也が読む『空海』高村薫著

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【書評】
文芸評論家・聖徳大教授の重里徹也が読む『空海』高村薫著

『空海』高村薫著(新潮社・1800円+税)

 外来思想と土着的な精神性をどう融合させるか。これは、多くの日本の知識人や芸術家が直面する課題だろう。この列島では古今、アニミズム(すべてのものに霊性が宿るといった考え)的な感覚を無視すると思想も表現も、なかなか力を持てないのではないか。乱暴な言い方だが、村上春樹も宮崎駿も、そこをうまく作品の力にしている。

 これに関連して、もうひとつ。空海は言葉に対して、並々ならない執着を持っていたという。入唐以前に室戸岬で「谷響を惜しまず、明星来影す」という決定的な身体体験をした。金星が口中に入るとは、どういうことか。この全身で体験した神秘を何とか言語化し、衆生を救済しようとしたのが空海だというのだ。

 空海とオウム真理教の比較もされている。オウムの元信者たちには、神秘的な身体体験をした者もいた。しかし、それを正しく言語化する意思も能力もなかった。「正しく」が難しく、面白いところだ。

 美しい写真も多く掲載されている。剛腕作家とともに、思考を少しずつ深めていけるのが楽しい。(新潮社・1800円+税)

 評・重里徹也(文芸評論家・聖徳大教授)

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